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第2章:「OCEANUS」/ 遠ざかった青、再び動き出す青


目次(1章〜最終章)


目次(上)

青に惹かれた日々

2013年から2016年頃、私はOCEANUSに強く惹かれていた。 S3000の深い青に心を奪われ、2015年に登場したS3400の薄さに揺れ、 G1100のGPSハイブリッド機能にも憧れた。

少しずつ貯金も始め、現金で買えるだけの額はすでに溜まっていた。 「S3000を買うぞ」 「在庫が無ければS3400だ」 そう心に決めていた。

あとは、踏み出すだけ──そのはずだった。

最後の一歩を止めたもの

その“最後の一歩”を踏み出せなかった理由は、思いもよらない形で訪れた。

息子が東京の大学に合格した。 入学金、家電、生活用品、初期費用……必要なものを揃えると、 私の貯金はほぼ使い果たされていた。

二年が過ぎた頃、息子から「寮から引っ越しがしたい」と連絡があった。 もちろん、引っ越し代や初期費用を自分で払えるはずもなく、頼れるのは親だけだった。

時計のために積み上げてきた貯金だけが、 唯一“動かせるお金”として残っていた。

自分の楽しみか、息子の生活か。 どちらも大切だからこそ、胸の奥が静かに痛んだ。 けれど、心のどこかでは最初から答えが決まっていた。

……そして私は、時計のために貯めたお金を息子に渡した。

派手な言葉も、特別な演出もいらなかった。 ただ、必要なときに必要なものを渡しただけだった。

その瞬間、青は遠ざかった。 けれど、それは後悔ではなかった。 青を諦めたのではなく、青より大切なものを選んだだけだった。

静かに眠っていた青

年月が流れ、時計のことを深く考えることも少なくなっていた。 それでも、心のどこかでOCEANUSの青を思い出す瞬間があった。 あの深い青は、まだ完全には消えていなかった。

そんなある日、思いがけない形で“山形”が再び私の前に現れた。

山形カシオとの再会

CASIO S100──カシオの技術を結集したフラッグシップ電卓。 アルミ削り出しのボディ、静かで正確なキー、そして山形カシオの誇りが宿る一台。

そのS100が、ふるさと納税の返礼品として紹介されていた。 説明欄に記された「山形県東根市」の文字を見た瞬間、 胸の奥で止まっていた記憶が静かに動き始めた。

「東根市……あの国道13号線のすぐそばじゃないか」

旅の途中で何度も通っていた道のすぐ脇に、 自分が長く憧れてきた“青”の生まれる場所があった。

山形カシオは、単なる工場ではない。 OCEANUSをはじめとする高級ラインを担う、マザーファクトリー。 技術者たちが一本一本の針を調整し、青の深みを追い込み、 “山形の青”を腕時計という小さな宇宙に閉じ込めている場所だ。

その存在を知ったとき、 長く止まっていた青が、再び静かに動き出した。

ガラス越しの青

私は、そこで作られた新しいモデルの存在を知った。 S3000の青を受け継ぎ、S3400の薄さを取り込み、 G1100の重厚さを避けつつ、腕に馴染むバランスを実現したモデル。

しかし、私はその時計を一度も腕に当てていない。 毎週末のようにデパートへ足を運び、ショーケース越しに OCEANUSをキラキラしながら見つめていただけだった。

ガラスの向こうにある青を、ただ眺めるだけ。 手を伸ばせば届く距離なのに、触れることはなかった。

S100をきっかけに山形カシオを知った最近のことだ。 その頃、胸の奥で眠っていた青が、再び静かに動き始めていた。

そして私はまだ知らなかった。 このあと、自分の選択が大きく揺らぐ出来事が待っていることを。

第2章 終了

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