
ここ数年、電気代が大きく上がった。 家計の負担として実感する人も多く、「なぜこんなに高くなるのか」という疑問が広がっている。
しかし、電気代の上昇は“突然の出来事”ではない。 その背景には、
- 国際的な燃料価格の変動
- 日本特有のエネルギー構造
- 過去の政策判断
- 技術的な制約
- 老朽化したインフラ
といった、長い時間をかけて積み重なった要因が複雑に絡み合っている。
電気は生活に欠かせないインフラであり、その価格は社会の構造を映し出す鏡でもある。 だからこそ、電気代の上昇を理解するには、単なる「値上げ」の一言では片づけられない。
この第7回では、電気代が上がる理由を 5つの視点 から整理し、 「なぜ今こうなっているのか」を読み解いていく。
電気の歴史シリーズ
全体目次(第1回〜最終回)
- 第1回:電気の誕生(世界)
- 第2回:エジソン ― 電気を社会にした男
- 第3回:日本に電気がやってきた(日本編)
- 第4回:なぜ日本は50Hzと60Hzに分かれたのか
- 第5回:日本の電力会社の誕生と送電網を作った人々(人物伝編)
- 第6回:巨大ダムと水力発電の誕生― 水の力が日本の電気を変えた ―
- 第7回:なぜ電気代は上がるのか(現代編)
- 第8回:最新エネルギーの未来 ― 電気は「作る」から「賢く使う」時代へ ―
- 火力燃料の高騰 ―― 日本の電気代は“燃料価格”に左右される
- 原子力停止の影響 ―― 穴を火力で埋めた結果、燃料費が膨らんだ
- 再エネの課題 ―― 急拡大の裏にある“歪み”
- ■ 歴史的背景:欧州のような長期計画ではなく“制度主導”で急成長
- ■ 読者の理解ポイント
火力燃料の高騰 ―― 日本の電気代は“燃料価格”に左右される
電気代が上がる理由の中で、もっとも直接的で、もっとも影響が大きいのが 火力発電の燃料費 だ。 日本の電力は現在も 約70%が火力発電 によってまかなわれており、燃料価格の変動がそのまま電気代に反映される構造になっている。
その中心にあるのが LNG(液化天然ガス) である。
■ LNGとは何か
LNG(Liquefied Natural Gas)は 液化天然ガス のこと。 天然ガスをマイナス約160℃まで冷却して液体にしたもので、体積が約1/600になるため、船で大量に運べる。
LNGの特徴
- クリーンな燃料:石炭や石油よりCO₂排出が少ない
- 輸送しやすい:液体にすると体積が小さくなり、船で運べる
- 価格変動が激しい:国際情勢・需要・天候で大きく上下する
- 日本の主力燃料:原子力停止後、LNG火力の比率が急増
日本はパイプラインがなく、燃料のほとんどを輸入に頼るため、 LNG価格の変動が電気代に直撃する。
■ 現代の状況:燃料価格の高騰と円安のダブルパンチ
ここ数年、世界的にエネルギー価格が大きく上昇した。
- LNG
- 石炭
- 石油
これらの価格が急騰し、日本の電力会社は調達コストの増加に直面している。
さらに追い打ちをかけたのが 円安 だ。 たとえば、
- 1ドル=100円 → 150円になると、 同じ量の燃料を買うコストが1.5倍 に跳ね上がる。
そして、この燃料価格の変動を毎月の電気料金に反映する仕組みが 「燃料費調整制度」 である。
検針票に記載されている「燃料費調整額」は、 燃料価格が上がればプラスに、下がればマイナスに働く。 つまり、 燃料費の高騰 × 円安 × 燃料費調整制度 という三重の要因が、電気代を押し上げている。
■ 歴史的背景:原子力停止で火力依存が強まった
燃料価格の影響がここまで大きくなった理由は、 日本の電源構成が火力に偏っている ことにある。
2011年の福島第一原発事故以降、原子力発電は長期停止となり、 その穴を埋めるために火力発電が急増した。 結果として、日本の電力は 「燃料を買わなければ発電できない」体質 が強まった。
■ 読者の理解ポイント
電気代の上昇を理解するうえで最初に押さえるべきは、 「燃料が高い=電気代が高い」 という、日本特有の構造だ。
燃料価格が上がれば電気代も上がる。 燃料価格が下がれば電気代も下がる。
このシンプルな関係が、いまの日本の電力システムの根本にある。
そしてこの燃料依存の構造は、 次章で扱う 原子力停止の影響 と深く結びついている。
原子力停止の影響 ―― 穴を火力で埋めた結果、燃料費が膨らんだ
電気代の上昇を語るうえで避けて通れないのが、原子力発電の停止だ。 2011年の福島第一原発事故以降、日本の原発は長期停止となり、 その穴を埋めるために火力発電が急増した。
この「火力へのシフト」が、燃料費の増大を招き、 結果として電気代の上昇につながっている。
■ 現代の状況:原発停止 → 火力依存 → 燃料費が膨張
福島事故前、日本の電源構成に占める原子力の比率は 約25〜30% あった。 しかし事故後、安全審査の強化により、一時はほぼ0% まで低下した。
不足分を補うため、電力会社は火力発電を増やすしかなくなり、
- LNG
- 石炭
- 石油 の調達量が大幅に増加した。
さらに、燃料価格の変動を毎月の電気料金に反映する 「燃料費調整制度」 によって、 燃料費の上昇がそのまま家庭の電気代に跳ね返る仕組みになっている。
燃料価格が高騰し、円安が進むと、 「燃料費の高騰 × 円安 × 燃料費調整制度」 という三重苦が発生し、電気代の上昇圧力は一気に強まる。
■ 歴史的背景:日本は「燃料リスクを下げるため」に原子力を選んだ
日本が原子力を導入した背景には、 「燃料を輸入に頼るリスクを減らす」 という明確な目的があった。
- 1970年代:石油危機
- 中東依存の危険性が浮き彫りに
- 「自前のエネルギー」を求めて原子力を強化
原子力は、 燃料価格の変動に左右されない安定電源 として位置づけられてきた。
しかし2011年以降、原子力が止まり、 再び火力依存へ逆戻りしたことで、 日本は再び 「燃料価格に弱い国」 に戻ってしまった。
■ 原発の是非とは別に理解すべきこと
原子力発電には賛否がある。 安全性、廃棄物、地域の不安――議論すべき点は多い。
しかし、電気代の観点で言えば、 「原発が止まった結果、燃料費が増えた」 という事実は揺るがない。
これは原発推進か反対かとは別の、 純粋なコスト構造の問題 だ。
■ 読者の理解ポイント
電気代の上昇を理解するうえで重要なのは、 原発停止 → 火力依存 → 燃料費増 → 電気代上昇 という因果関係だ。
そしてこの構造は、 次章で扱う 再エネの急拡大と賦課金、系統制約、送電網の老朽化 とも密接に絡み合っていく。
再エネの課題 ―― 急拡大の裏にある“歪み”
再生可能エネルギーは、脱炭素社会に向けて欠かせない存在だ。 しかし日本では、再エネの急拡大が 新たなコスト と 系統(送電網)の制約 を生み、 結果として電気代の上昇要因のひとつになっている。
ここでは、太陽光を中心とした再エネの急成長が、なぜ電気代に影響するのかを整理する。
■ 現代の状況:FITで太陽光が急増、しかし発電は不安定
2012年に導入された FIT(固定価格買取制度) により、 太陽光発電は日本中で一気に広がった。
- 太陽光の導入量は10年で約10倍
- 特に九州・北海道で急増
- 発電量は天候に左右される
- 昼間に大量に発電し、夕方に急減する「カクッと落ち」問題
この不安定さが、電力会社の運用を難しくしている。
さらに、地域によっては 「もう送電線に空きがない」 という状況が発生し、出力制御(発電を止める)が行われている。
■ コスト構造①:FIT賦課金(ふかきん)
FIT制度では、電力会社が再エネを高い価格で買い取る。 その差額は 「再エネ賦課金」 として、 全国の家庭・企業の電気料金に上乗せされている。
- 家庭の電気代に毎月必ず加算
- 再エネが増えるほど賦課金も増える
ただし、近年は燃料価格の高騰で市場価格が上がった影響により、 一時的に賦課金が下がる年度(例:2023年度)もあった。 それでも中長期的には、再エネ導入量の増加に伴い、 国民負担は大きくなり続けている という構造は変わらない。
■ コスト構造②:系統(送電網)の増強費
太陽光は「発電しやすい場所」に集中して増えた。 しかし電気を多く使うのは「人が多く住む都市部」だ。
この 地理的ミスマッチ が、送電網の増強を必要とする最大の理由になっている。
● どこで発電しているのか
太陽光が大量に導入されたのは、
- 北海道(広大な土地・日照条件が良い)
- 九州(日照時間が長く、導入量が全国トップクラス)
これらの地域では、 昼間に電気が余るほど発電される ことがある。
● どこで電気を使っているのか
一方、電気を大量に使うのは人口が集中する都市部。
- 関東(東京圏):日本最大の需要地
- 関西(大阪圏):工場・商業施設が多い
つまり、 電気は「北海道・九州で余り、関東・関西で足りない」 という構造になっている。
● なぜ「送れない」のか
本来なら、
- 北海道 → 本州
- 九州 → 本州 へ大量に送ればよい。
しかし、ここに大きな問題がある。
北海道—本州間
- 1本の細い連系線でつながっている
- 容量が小さく、大量に送ると“渋滞”が起きる
九州—本州間
- 同様に送電容量が不足
- 九州内で太陽光が余っても、本州へ送れない
その結果、 「出力制御(発電の強制停止)」 が行われる。 これは、再エネの発電コストがほぼゼロであるにもかかわらず、 送電線がいっぱいになると“作った電気を捨てる”しかない という、非常にもったいない状況だ。
● だから「送電網の増強」が必要になる
- 北海道 → 本州
- 九州 → 本州
- 地方 → 都市部
これらを結ぶ送電線を太くし、 電気を大量に流せるようにする必要がある。
しかし、送電線の増強には
- 山間部の工事
- 地権者調整
- 巨額の建設費 がかかり、最終的には 電気料金に上乗せ される。
■ 歴史的背景:欧州のような長期計画ではなく“制度主導”で急成長
欧州では、
- 送電網の整備
- 再エネの配置計画
- 蓄電池や水素との連携
といった 長期的なシステム設計 を行いながら再エネを増やしてきた。
一方、日本は
- FITという制度が先に導入
- 送電網の整備が追いつかない
- 地域偏在が発生
- 系統制約が顕在化
という 「制度が先、インフラが後」 の構造になってしまった。
その結果、 再エネの急拡大が コスト増 と 系統のひっ迫 を招く形になった。
■ 読者の理解ポイント
再エネは「安い」「クリーン」というイメージが強いが、 日本では制度と地理的条件の影響で、 “安いだけでは語れないコスト構造” を持っている。
- FIT賦課金
- 系統増強費
- 地域偏在
- 出力制御
- 送電網の制約
これらが複合的に電気代へ影響している。
そして実は、 現在の送電網そのものが「大規模発電所 → 都市部」への一方通行を前提に作られた“古い設計” だ。 再エネ時代に必要な「双方向・網の目状のネットワーク」へ作り替えるには、 老朽化対策以上の莫大なコストがかかる。
この問題が、次章で扱う 送電網の老朽化と更新費 へとつながっていく。
送電網の老朽化 ―― 見えないインフラの更新費が電気代にのしかかる
電気代の上昇は、発電コストだけでは説明できない。 実は、私たちの生活を支える 送電網(送電線・変電所などのインフラ) が、 高度経済成長期に整備されたまま老朽化し、 いま大規模な更新時期を迎えている。
この「見えないインフラ」の更新費が、電気料金に確実に上乗せされつつある。
■ 現代の状況:高度成長期に作られた設備が一斉に寿命を迎える
日本の送電網の多くは、
- 1960〜70年代の高度成長期
- 大規模火力・原子力を前提にした設計 で整備された。
そのため現在は、
- 鉄塔・送電線の老朽化
- 変電所設備の更新時期
- 地震対策の強化 など、全国的に一斉更新が必要なタイミング に入っている。
送電網は「壊れてから直す」ことが許されないインフラであり、 計画的な更新が不可欠だ。
しかし、これには 数兆円規模の投資 が必要で、その費用は最終的に電気料金に反映される。
■ 歴史的背景①:東西で周波数が違う“分断された日本”
日本の送電網には、世界でも珍しい構造的な問題がある。
- 東日本:50Hz
- 西日本:60Hz
という 周波数の違い だ。
この違いにより、
- 東西の電力を自由に融通できない
- 日本全体を一つの大きな電力網として使えない
という制約が生まれている。
周波数変換所は存在するが、容量は限られており、 大規模な電力融通には対応しきれない。
■ 歴史的背景②:10電力体制による“地域ごとの独立系統”
日本の電力システムは長らく 10の電力会社ごとの独立系統 で運用されてきた。
そのため、
- 地域間の連系線が細い
- 広域で電力を融通しにくい
- 地域ごとに設備投資が必要
という構造が残っている。
この「地域分断型」の設計が、 再エネ時代の柔軟な電力運用を難しくしている。
■ 再エネ時代に合わない“古い設計”
現在の送電網は、 「大規模発電所 → 都市部へ一方向に送る」 という前提で作られている。
しかし再エネ時代は、
- 地方に点在する太陽光・風力
- 都市部の屋根上太陽光
- 蓄電池
- EV(電気自動車)
など、電気が双方向に流れる時代 だ。
つまり、 「一方通行の高速道路」から「網の目状の双方向ネットワーク」へ作り替える必要がある。
この転換には、老朽化対策以上の莫大な費用がかかる。
■ レジリエンス(防災)の視点:災害に強い“新しい網”が必要
近年、台風・豪雨・地震などの災害が激甚化している。 そのため送電網の更新は、単なる「古い設備の交換」ではなく、
「災害時でも停電しにくい強い電力網」へのアップグレード
という意味を持つ。
- 電線の地中化(倒木・風害に強い)
- ルートの多重化(どこかが切れても別ルートで供給)
- 変電所の耐震化
- 分散型電源に対応した制御設備
こうした防災強化も、更新費を押し上げる要因になっている。
■ 託送料金(たくそうりょうきん)とは何か
送電網の更新費は、 「託送料金」 として電気料金に含まれる。
託送料金とは、 いわば「電気の配送料」 だ。
ネット通販で商品代とは別に送料がかかるように、 電気も送電線を使うための料金が必要になる。
託送料金には、
- 送電線の維持
- 変電所の更新
- 災害対策
- 広域連携の強化
といった費用が含まれ、 結果として電気代の上昇につながっている。
■ 読者の理解ポイント
送電網は普段目に見えないが、
- 老朽化
- 周波数の分断
- 地域ごとの独立系統
- 一方向設計の限界
- 災害対策の必要性
- 双方向ネットワークへの転換
といった課題が重なり、 大規模な更新が避けられない段階に来ている。
そしてこの更新費は、 確実に電気料金へ反映されていく。
次章では、こうした構造にさらに影響を与える 電力自由化と市場価格の乱高下 について見ていく。
電力自由化と市場価格の乱高下 ―― “競争”が必ずしも安さを生まない理由
電力自由化は、 「競争が生まれれば電気代は安くなる」 という期待のもと始まった。
しかし現実には、
- 市場価格の乱高下
- 新電力の大量撤退
- 結果として電気代が上がる という、当初の想定とは逆の現象が起きている。
ここでは、自由化がなぜ電気代の上昇要因になり得るのかを整理する。
電力自由化の目的:競争で“安くなるはず”だった
2016年、家庭向け電力が全面自由化された。 目的は明快だ。
- 競争が生まれる
- 企業努力で安くなる
- 消費者が選べるようになる
自由化直後は、
- ポイント還元
- ガス・携帯・ネットとのセット割
- 新電力の参入 で電気代が下がった家庭も多かった。
しかしこの構造は、 「燃料が安く、供給が安定している」 ことを前提にしていた。
電力会社は“発電・送電・小売”に分解された
自由化後、日本の電力会社は3つの役割に分かれた。
① 発電(作る)
火力・水力・風力・太陽光などで電気を作る会社。 電気を JEPXに売る側。
② 送電(運ぶ)
送電線・変電所を持つ会社。 ここは自然独占なので自由化されていない。
③ 小売(売る)
家庭や企業に電気を販売する会社。 発電所を持っていても、持っていなくてもよい。
つまり、 発電所ゼロでも電力会社になれる。 これが「格安電気」の正体。
仕入価格(JEPX価格)とは何か
小売電気事業者が電気を買うときの“原価”が、 JEPX(日本卸電力取引所)の市場価格=仕入価格。
- 発電所を持つ会社 → 売り手
- 発電所を持たない新電力 → 買い手
株式市場で株を売買するように、 JEPXでは電気を売買する。
なぜ仕入価格は上がるのか
JEPXは市場なので、 需要と供給で価格が決まる。
- 寒波・猛暑 → 需要急増 → 価格上昇
- 発電所トラブル → 供給減 → 価格上昇
- LNG高騰 → 火力のコスト上昇 → 価格上昇
- 風が止む・曇る → 再エネ減少 → 価格上昇
通常は1kWhあたり10円前後だが、 逼迫時には100円、200円、過去には1,000円近くまで跳ね上がった例もある。
予備率と価格の関係 ―― “足りなくなりそう”だけで跳ね上がる
電気は基本的に 大量に貯められない。 そのため、需給が少しでも崩れると市場価格が一気に跳ね上がる。
● 予備率とは
需要に対して、どれだけ“余裕のある発電設備”が残っているかを示す指標。
- 予備率10%以上 → 余裕がある
- 予備率3%以下 → 需給逼迫(危険水域)
予備率が低くなると、 「あと少し足りないだけ」で市場価格が急騰する。
例:
- 予備率10% → 市場価格10円前後
- 予備率3% → 50〜100円
- 予備率1% → 200円以上
市場が“シビアすぎる”理由がここにある。
なぜ販売価格は上がらないのか
ここが最大の誤解ポイント。
● 仕入価格(JEPX)は“1時間ごとに変動”
● 販売価格(家庭向け料金)は“固定”
だから、 仕入れ値だけが急騰し、販売価格は据え置きになる。
販売価格が上げられない理由
① 新電力は「固定料金プラン」が基本
- 1年固定
- 2年固定
- セット割
契約期間中は値上げできない。
② 大手電力は「規制料金」で縛られている
従量電灯などの古いプランは国の認可制。 勝手に値上げできない。
③ 料金は“即時反映”できない
- JEPX → 1時間ごとに変動
- 家庭向け料金 → 月単位・年単位でしか変更不可
スピードが違いすぎる。
市場連動型プランの台頭 ―― 安さの裏に潜むリスク
近年は、 JEPXの価格がそのまま電気代に反映される「市場連動型プラン」 を採用する新電力が増えている。
- 市場が安い時 → 激安
- 市場が高騰した時 → 電気代が数倍に跳ね上がる
2021〜2022年には、 1ヶ月の電気代が10万円を超えた家庭 も実際にあった。
契約内容を理解せずに選ぶと、 家計への影響が非常に大きくなる。
新電力の撤退 → 競争が弱まり、料金が上がる
新電力が撤退すると、
- 選択肢が減る
- 競争が弱まる
- 大手電力のシェアが戻る
という流れが生まれる。
自由化の目的だった 「競争による値下げ」 が機能しにくくなる。
大手電力の「規制料金」は“防波堤”だった
自由化されても、大手電力の従量電灯などは 国の認可制=勝手に値上げできない。
これは市場の暴騰から消費者を守る 安全装置(セーフティネット) の役割を果たしている。
自由化の光は「選べる」ことだが、 影は「市場リスクを消費者が直接負う」こと。
規制料金は、 自由化市場の“暴れ馬”から消費者を守る最後の防波堤 と言える。
読者の理解ポイント
電力自由化は、 「市場が安定している時にこそ効果を発揮する仕組み」 だ。
しかし、
- 燃料高騰
- 再エネの不安定さ
- 発電所の余力不足
- 需給逼迫 が重なると、市場価格が乱高下し、 結果として電気代の上昇要因になり得る。
次章では、こうした複雑な構造を踏まえたうえで、 「では、これから電気代はどうなるのか」 という未来の視点を整理していく。
これからの電力システム ―― “高くなる理由”から“どう備えるか”へ
5章までで見てきたように、電気代は 「自由化の失敗」や「企業努力不足」ではなく、構造的な要因 によって上がりやすい時代に入っている。
- 老朽化した送電網の更新
- 再エネの不安定さ
- 火力発電の縮小
- 燃料価格の高騰
- 市場価格の乱高下
- 新電力の撤退
これらが複雑に絡み合い、 電気代は“下がりにくく、上がりやすい”方向に向かっている。
では、これからの電力システムはどう変わるのか。 そして私たちはどう備えればいいのか。
電気代は「上がりやすい時代」に入った
電気代は今後しばらく、 “下がる要素より、上がる要素のほうが多い” と考えるのが現実的だ。
上がる要因
- 送電網の大規模更新
- 火力発電の維持費増加
- LNGなど燃料価格の不安定化
- 再エネの変動を補うための調整費
- 脱炭素政策による追加コスト
下がる要因
- 再エネの発電コスト低下
- 蓄電池の普及
- 需要側の節電・効率化
ただし、再エネが増えても 送電網の増強や調整力の確保が必要になるため、 短期的にはむしろコストが増える。
再エネは増えるが、“万能ではない”
日本は今後、再エネ比率を大幅に増やす方針だ。
再エネの強み
- 燃料費ゼロ
- CO₂排出ゼロ
- 長期的には安価
再エネの弱み
- 天候に左右される
- 発電量が読みにくい
- 大量導入には送電網の強化が必要
- 夜間・無風時のバックアップが必須
つまり、 再エネは重要だが、再エネだけでは電力システムは安定しない。
蓄電池とEVが“調整力”として重要になる
再エネの不安定さを補うため、 今後は 蓄電池 と EV(電気自動車) が重要な役割を担う。
蓄電池の役割
- 太陽光の余剰電力を貯める
- 夜間や曇天時に放電する
- 需給バランスを安定させる
EVの役割
- 家庭用蓄電池として使える(V2H)
- 災害時のバックアップ電源になる
- 充電タイミングを調整することで需給調整に貢献
蓄電池の価格は年々下がっており、 2030年代には一般家庭でも当たり前に導入される可能性が高い。
送電網は“太く・賢く・双方向”に変わる
これまでの送電網は 「大規模発電所 → 都市へ一方向」 という構造だった。
しかし再エネ時代は、
- 地方の太陽光
- 海上風力
- 家庭の屋根上太陽光
- 蓄電池
- EV
など、電気があらゆる方向に流れる。
そのため送電網は、 “双方向で賢いネットワーク” へと進化する必要がある。
必要な投資
- 老朽化設備の更新
- 送電線の増強
- 周波数変換所の拡張
- 分散型電源に対応した制御システム
これらはすべて電気料金に反映される。
市場は“安定化”に向けて再設計される
JEPXの乱高下は、
- 再エネの急増
- 火力の縮小
- 予備率の低下 が重なった結果だ。
今後は、 市場の安定化(価格の暴騰を防ぐ仕組み) が進む。
容量市場(ようりょうしじょう)とは何か
容量市場とは、 「いざという時のために発電所を待機させておくための“待機料金”を支払う仕組み」 のこと。
- 普段は動かさない古い火力発電所
- 需要急増時にだけ動かす予備電源
- 災害時のバックアップ電源
これらを維持するための費用を、 電気代の一部として前もって支払う“保険料” と考えると分かりやすい。
容量市場があることで、
- 急な停電を防ぐ
- 市場価格の暴騰を抑える
- 新電力の撤退を防ぐ
といった効果が期待される。
ただし、 この“保険料”も電気代に含まれるため、短期的には料金が上がりやすくなる。
消費者は“選び方”が変わる
これからの電力選びは、 「安さ」ではなく「リスク管理」 が重要になる。
- 市場連動型プラン → リスク高い
- 大手電力の規制料金 → 安定性が高い
- 新電力の固定料金 → 条件次第で有利
しかし、これからの本質はここから先にある。
電気は「買うもの」から「作って管理するもの」へ
電気代が上がりやすい時代では、 “どこから安く買うか”よりも、“いかに買わずに済ませるか”が重要になる。
- 太陽光で発電して自分で使う(自家消費)
- 蓄電池に貯めて、電気が高い時間帯に使う
- EVを家庭用蓄電池として活用する
- 安い時間に電気を買って、高い時間に使わない
つまり、 「電気を買う」から「電気をコントロールする」時代へ移行していく。
これは家計にとっても、 電力システム全体にとっても、 非常に大きなパラダイムシフトになる。
読者の理解ポイント
これからの電力システムは、
- 再エネの拡大
- 蓄電池の普及
- EVの活用
- 送電網の高度化
- 市場の安定化 という方向に進む。
しかしその過程では、 電気代は短期的に上がりやすい。
だからこそ、 「どのプランを選ぶか」 「どこまで自家消費するか」 「どの程度リスクを取るか」 が、これまで以上に重要になる。
次章では、 “結局どの電力会社・どのプランを選べばいいのか” を具体的に整理していく。
結局どの電力会社・どのプランを選べばいいのか
―― “安さ”より“リスク管理”の時代へ
電気代は、もう 「どこが一番安いか」だけで選べる時代ではない。
- 市場価格の乱高下
- 新電力の撤退
- 燃料価格の高騰
- 再エネ比率の増加による不安定さ
こうした要因が重なり、 「安さだけを追う=リスクを抱える」 という構造が生まれている。
だからこそ、これからは 「どこが一番リスクが低いか」 という視点で電力会社を選ぶことが重要になる。
契約前に必ず確認したい5つのポイント
電力プランは名前が似ていても、 仕組みがまったく違う ことがある。
特に「市場連動型」は、理解せずに契約すると 家計に大きなダメージを与える可能性 がある。
① 固定料金か、市場連動型か
- 固定料金:単価が安定、家計が読みやすい
- 市場連動型:市場価格に応じて変動、安い時は最安だが高騰時は危険
② 契約期間・違約金の有無
- 1〜2年縛りがあるプランも多い
- 途中解約で違約金が発生する場合もある
③ セット割の条件
- 電気+ガス
- 電気+携帯
- 電気+ネット などのセット割は強力だが、 どれかを解約すると割引が消える ケースもある。
④ 料金シミュレーションが“最新単価”か
比較サイトの中には、 古い単価のまま更新されていないもの もある。
⑤ 口コミより“約款と料金表”を優先
SNSの声は参考程度に。 最終的に頼れるのは 公式の料金表と約款。
補足:規制料金が“最強の安全策”とされる理由
大手電力の「規制料金(従量電灯)」には、 燃料費調整額に「上限(ストッパー)」が設定されている場合がある。
燃料価格がどれだけ上がっても、 無制限に料金へ転嫁できない仕組み のため、 市場高騰時のダメージを最小限に抑えられる。
これが「家計の防波堤」と呼ばれる理由。
検針票で一度チェックしておきたいポイント
● チェックすべき2つの欄
- 燃料費調整額
- 再エネ賦課金(どの会社でも同じ)
「自分の家の電気代の“変動要因”がどこにあるのか」 を一度見ておくだけで、理解が一気に深まる。
タイプ別:どの電力会社を選ぶべきか
① とにかく「安定」を重視したい
→ 大手電力の規制料金(従量電灯)
- 東京電力
- 関西電力
- 中部電力
- 東北電力
- 九州電力
- 北海道電力
- 中国電力
- 四国電力
- 沖縄電力
メリット
- 国の認可制で、勝手に大幅値上げできない
- 供給が安定
- 市場高騰の影響を受けにくい
向いている人
- リスクを取りたくない
- 電気代が急に跳ね上がるのは避けたい
② 安さとリスクのバランスを取りたい
→ 新電力の“固定料金プラン”
代表的な会社
- ドコモでんき(固定料金+dポイント還元)
- ENEOSでんき
- 東京ガスの電気
- 大阪ガスの電気
- ソフトバンクでんき
- auでんき
- コスモでんき
- ミツウロコでんき
- 楽天でんき(固定プラン提供時)
メリット
- 大手電力より安いことが多い
- 市場連動ではないため高騰リスクが低い
- セット割やポイント還元が強力
向いている人
- ある程度安くしたい
- でも極端なリスクは避けたい
- dポイントなどをよく使う
③ リスクを理解したうえで「最安」を狙いたい
→ 市場連動型プラン(JEPX連動)
代表的な会社
- Looopでんき
- ハルエネでんき
- シン・エナジー
- 地域のローカル電力会社
メリット
- 市場が安い時は最安
デメリット
- 高騰時は電気代が数倍になる可能性
- 2021〜2022年には1ヶ月10万円超の家庭も実際に発生
向いている人
- 市場価格を理解している
- 電気の使い方を調整できる
- 太陽光や蓄電池を持っている
④ 太陽光・蓄電池・EVを持っている
→ “どれだけ買わずに済ませるか”が重要
太陽光や蓄電池、EVを持っていても 電力会社との契約は必須。
ただし、節約の本体は 「どれだけ自家消費できるか」 に移る。
- 昼:太陽光でまかなう
- 余り:蓄電池・EVに貯める
- 夜:蓄電池・EVから使う
相性が良いプランの例
- ドコモでんき(固定料金+dポイント還元)
- ENEOSでんき
- 東京ガスの電気
- 大阪ガスの電気
- 大手電力の規制料金
⑤ どれを選べばいいか分からない人
→ 大手電力の規制料金 or 新電力の固定プラン
具体例
- 大手電力の従量電灯
- ドコモでんき(固定料金+dポイント還元)
- ENEOSでんき
- 東京ガスの電気
- 大阪ガスの電気
- コスモでんき
- ミツウロコでんき
安全な理由
- 市場連動ではない
- 料金体系がシンプル
- 供給が安定
- セット割が強い
まとめ:これからの選び方の本質
これまでの電力自由化は 「どこから安く買うか」 の競争だった。
しかしこれからは、
- いかに買わずに済ませるか(自家消費)
- 安い時間に貯めて、高い時間に使う
- どれだけ市場リスクを避けるか
という視点が欠かせない。
結びの言葉(シリーズ全体の締め)
電気代が上がる理由は一つではない。 しかし、その背景にある構造を知れば、 ただ不安になる必要はない。
正しく理解し、 自分の生活に合った“リスク管理”を選ぶこと。
それこそが、 これからのエネルギー高騰時代を賢く生き抜くための 唯一の確かな方法 である。
第7回 終了


