
【連載】CASIO S100:48年の憧れ(全6回)
- 第1回:「S100』/ 原点は1978年。将棋大会の帰りに震えた「カシオの電卓」の衝撃。
- 第2回:「S100』/ 道具の「手応え」を求めて。技術屋が電卓に求める美学。
- 第3回:「S100』/ 山形カシオという聖地。マザーファクトリー。
- 第4回:「S100』/ 1978年の少年への回答。画面越しに伝わる「削り出し」の官能。
- 第5回:「S100』/ 指先が想像する「正解」。V字ギア構造への期待。
- 第6回:「S100』/ 旅の終着地。私のデスクに「山形の青」が灯る日。
地図を眺めながら、私は自分の「無意識」に驚いていた。 カシオの最高峰電卓・S100を生み出している「山形カシオ」の所在地。それは、私が趣味のドライブやツーリングで、毎年欠かさず走り通っていた国道13号線のすぐそばにあったのだ。
いつも眺めていたあの景色の中に、私の憧れの正体があった。
走り慣れた「13号線」の記憶
山形の道は、走っていて気持ちがいい。 左右に広がる果樹園、遠くに見える山々の稜線。特に東根から天童、そして山形市へと南下するルートは、私にとってお決まりのコースだ。
「あそこの蕎麦は旨かったな」 「あの温泉の空気は最高だった」
そんな思い出ばかりが先行していた道すがら、私は何度も「山形カシオ」の看板や工場の近くを通り過ぎていたはずなのだ。 技術屋を自称しながら、あんなにも美しい「構造」を生み出している場所を、知らずに素通りしていた自分に、少しだけ苦笑いしてしまった。
山形という土地が育む「精緻」
なぜ、カシオは山形にマザーファクトリーを置いたのか。 実際に山形を歩き、その空気に触れたことがある人なら、なんとなく理解できる気がする。
山形には、将棋の駒の街として知られる天童がある。 一枚の木片に命を吹き込み、指先に馴染む究極の道具を作る伝統。 また、銀山温泉のように、古いものを大切に守りながら美しさを維持する精神。
この土地には、目に見えない部分にまで神経を研ぎ澄ます「精緻なモノづくり」の土壌が、当たり前のように存在しているのだ。
あの広大なさくらんぼ畑を抜けた先にある工場で、熟練の職人たちが、ミクロン単位の精度でS100のパーツを組み上げている。 そう想像するだけで、ただの電卓が、山形の風景を纏った「工芸品」のように思えてくる。
風景と技術が一本の線に繋がるとき
国道13号線を走る時、私はいつもその「土地の力」を感じていた。 安定した道路の舗装、整然と並ぶ防雪柵、そしてお城の石垣のように力強く積み上げられた自然。
私が愛してやまない「構造の美」は、この山形の風景そのものだったのだ。
私がS100に求めていたのは、単なる道具のスペックではない。 自分が何度も走り、空気を吸い、信頼を寄せている「山形」という土地が保証する、嘘偽りのない技術。
「あの道の先に、この一台がある」
そう確信した瞬間、S100を手に入れることは、私にとって単なる買い物ではなく、これまでの自分の人生や旅の記憶をひとつに繋ぎ合わせる、大切な儀式へと変わっていった。
第3回 終了


